1976年、ライ・クーダーのアルバム『ChickenSkinMusic』に参加した故ギャビー・パヒヌイによって、ハワイアン・スラッキー・ギターという言葉が、音楽ファンの間で世界的に注目を浴びることとなりました。 このスラックキー・ギター(スラッキー・ギターともいう)、スラックとは“緩い”を意味し、ハワイでは古くから愛されている弦を緩めた独特のギターのチューニング方法のことです。
今やハワイ音楽の中でも、ウクレレと人気を二分する楽器(厳密には楽器ではなく、チューニング方法ですが)のスラックキー・ギター。 このスラックキー・ギター奏者の第一人者として国内外で高い人気を博すのがケオラ・ビーマーです。
ケオラ・ビーマーは、ハワイでも高名な音楽一家に生まれました。
ビーマー家は、そのルーツを15世紀にまで遡ることができる格式ある家柄であり、その一族は、ハワイ音楽と深く関わる作曲家や演奏家を輩出し、数々の名曲が生み出されています。 ケオラの母、故ノナ・ビーマーは、古典フラ(カヒコ)の伝承者として有名であったが、それにとどまらずハワイ音楽の伝統を守り、さらに広くハワイの文化や教育、ハワイアンの人権におよぶ功績を残し、アンティ・ノナとして多くのハワイアンの尊崇を集めました。
ケオラは、こうした伝統的なハワイの音楽や文化の色濃い環境に生まれ、育ちました。
1978年にサーフ・ムービーの金字塔『ビッグ・ウェンズデイ』(主演:ジャン=マイケル・ビンセント)のエンディング・テーマに、「オンリー・グッド・タイムス」が起用されたことで全世界中のサーファーの間でハワイ音楽を代表する曲として話題となります。 同年(ケオラ・カポノ)ビーマー兄弟によるアルバム『ホノルル・シティ・ライツ』が発表され、大ヒットを記録。
ハワイのグラミー賞と言われる“ナ・ホク・ハノハノ・アワード”にて最優秀コンテンポラリー・アルバム賞、最優秀楽曲賞など5部門を受賞しました。
その後アルバム同名曲「ホノルル・シティ・ライツ」は、カーペンターズのアルバム『ラブライン』にカバー収録されたことで、ポップ・フィールドにおいてもケオラ・ビーマーの名は広く知られるようになります。当時リチャード・カーペンターは、ハワイを旅したときに聞いた「ホノルル・シティ・ライツ」を、是非自分たちのアルバムに収録したかったと語っています。この「ホノルル・シティ・ライツ」は、小林明子、杉山清貴といったアーティストたちにもカバーされ、日本のアーティストの中でも愛されています。
ちなみに近年ではこの『ホノルル・シティ・ライツ』は、ハワイにおけるハワイ音楽を代表する名曲50選(50GreatestSongsofHawaii)に選ばれ、その中で堂々3位となっています。
その後も沢山のスラックキー・ギターによる優れたアルバムを発表してゆきます。
1994年、ジョージ・ウィンストンによるダンシング・キャットレーベルから発売した『WoodenBoat』は、ビルボード・ワールドミュージック・チャートでハワイの音楽CDとしては初めてトップ15にランクイン。続く『Moe’uhaneKika-TalesfromtheDreamGuitar』、『MaunaKea-WhiteMountainJournal』、『Kolonahe-fromtheGentleWind』、『Soliloquy』も次々にトップ15入り。そして2003年自身の’OheRecordsレーベルからのファーストリリース『IslandBorn』も高い評価を受け、全米のメディアで流されました。
数々の名アルバムをリリースしてきたケオラですが、その守備範囲は、ハワイアン・ミュージックという枠組みにとどまりません。
クラシックやジャズ、アメリカインディアンの伝統などと幅広く向き合い、2006年には、アルバム『KaHikinaOKaHau-ComingoftheSnow』を発表。クラシックをエッセンスとしたこの作品は、グラミー賞にもノミネートされました。
またハワイ音楽の伝統を見直すことをテーマにした『MohalaHou-MusicoftheHawaiianRenaissance』(2003年)では、カナダのジャズ・ピアニストのGeoffreyKeezerやハワイのジャズ・ベーシストのJohnKolivasを迎え、ジャジーでエモーショナルなアルバムに仕上げています。
さらに昨年(2012年)には、『MalamaKoAloha(KeepYourLove)』を発表。ジャズ・ピアニストGeoffreyKeezer、アメリカン・ネイティブ・フルートの達人CarlosNakaiを迎えての野心的なアルバムは、2013年のグラミー賞にもノミネートされました。
近年日本でも公開され話題になった映画TheDescendants(邦題:ファミリーツリー/主演ジョージ・クルーニー)のサウンドトラックにも楽曲参加して収録され、グラミーノミネートとなりました。
ケオラ・ビーマーの音楽そして演奏は、他のハワイアンとは一線を画し、ハワイアンというプレゼンスを軸足としながら、より深く、より幅広い懐を持っています。
とかくハワイの音楽は、夏のBGM、ビアガーデン、フラ・・・といったアイコンの一括りにされ、音楽性は二の次になってしまいがちですが、そんな心がけでケオラのライブに行ったならば、その音楽と演奏の素晴らしさ・奥深さに大きな衝撃を受け、発見の喜びに浸ることになるでしょう。
ハワイ音楽の持っている固定概念が覆されるカタルシスなひと時を楽しんでください。
モアナ・ビーマーは、4歳からフラ(フラダンス)を始め、20代はマウイ島の一流ホテルでダンサーとして活動する傍ら、様々なクムの指導を受け、ソロアーティストとして確立してゆきます。 現在はクムフラ・モアナ・ビーマーとしても活躍中。
結婚を機にケオラの母親から伝統的なフラスタイルである、ビーマー・スタイルを伝授されます。
また古典楽器であるノーズフルート、イリイリ(石)、イプヴァイ(瓢箪をくりぬいた楽器)、ポイボール、バンブー(竹)なども使用。ダンサーだけではなくケオラの音やステージパフォーマンスには欠かせない存在です。